やわく、制服で隠して。
入学してからしばらくは、深春に学校での様子を細かく聞くことが日課になっていたわ。

この子は元々学校であったこととか、お友達のことはあまり話さない子だったけれど、高校に上がってからは違ったの。

“そういえば言ってなかったけど、入学式の日に友達ができてね。まふゆっていう子なんだけど。”

深春が最初にそう言った時、あまりにも神様が味方し過ぎてるって思って鳥肌すら立ったわ。

「他にもクラスメイトは居るでしょう?どうしてその子に声をかけたの。」

そう聞いたらね、深春は“分かんない”って言った。

“分かんないけど、クラスの中で一番冷めた目をしてた。友達なんて要らないって顔で。私って負けず嫌いじゃない?だからかな。それに名前が似てたし。”

そう言ったのよ。
まふゆちゃんったら。最初はお勉強のことだけで冬子ちゃんとの違いを感じていたけれど、そういう雰囲気を持っているところが、冬子ちゃんによく似てるって思った。

それに、深春とまふゆちゃんはやっぱり姉妹なんだわ。
惹かれ合わずにはいられないのね。
それに“名前が似てたから”だなんて、なんて素敵な理由なのかしら。
私は“してやったり”な気分になって誇らしかった。

日に日に、まふゆちゃんのことを話して聞かせてくれる深春の表情が変わっていった。
それは、恋をする目だった。

あの頃の、鏡に映る自分によく似た目だった。
私と深春は確かに親子で、同じ感性を持っていて、けれど深春にとって絶対的に“悲劇”なのは、二人が“姉妹”だっていうこと。

冬子ちゃんのことを本気で愛した私よりも、深春の恋は救いようが無かった。
それでも、私は深春の恋に気付いていながらも止めようとは思わなかったし、もっともっとまふゆちゃんを求めて、精神的にも離れられなくなってしまえばいいと思ったわ。
そうなることだけが正しいと思っていた。

“その時”は、突然やって来たわ。
一学期の間はまだアクションは起こさないほうがいいかしら、そろそろ自宅に招いてみてもいいかしら、あれこれ考えているうちに、ある日突然、深春からのSOSが主人に入ったの。

それが“家庭教師事件”。
内容は話す必要は無いと思うけれど、まぁ…、あのままよね。

まふゆちゃんにとっては本当に辛い出来事だったけれど、私と主人にとっては、こんな偶然が起こりうるのかって、あの事件の後もしばらく不思議な気持ちだった。

これは私達に起きた、何度目かの奇跡。
鬼だと思うかもしれないけれど、あの元家庭教師に感謝する気持ちすら湧くほどだった。
< 151 / 182 >

この作品をシェア

pagetop