やわく、制服で隠して。
何を失ってもいいと思った。
本当にもう、深春以外に失う物なんて何もない。

あと半年の人生。
その全てを深春の為に生きることが出来るのなら幸せだ。

残りの夏休み。
パパが仕事の日は私の家で、それ以外は図書館で会ったり、たまに深春の両親が居ない時には深春の家で会ったりした。

深春の両親には会いたくなかった。
特に、おじさんには。
二人は私に会いたがっていたし、ママのこともしつこく聞いていたようだけど、今では深春もほとんどの時間を自分の部屋に篭って過ごしているらしい。

深春のお母さんは「あの子もようやく反抗期かしら。」なんて言って笑っているそうだ。

そうやって二人とも、何も知らないまま全てが思惑通りだと思い込んで、私達の最後を見て後悔すればいい。

あなた達は何も手に入れることなんて出来ない。
私達が全部奪ってあげる。

「ねぇ。私達、似てるかなぁ。」

もうすぐ夏休みが終わろうとしている。
深春の部屋で、美術の自画像の宿題をしていた時。
お互いにテーブルに置いた卓上ミラーを覗き込みながら深春が言った。

画用紙の中のそれぞれが描いた自画像は、画力の差もあるけれど、全然似ていない顔だ。
深春が描いた自画像のほうは確かに深春に似ている。
私の絵は、私にも深春にも似ていない。

「さぁ。お互い母親似なんじゃない。」

「そうかも。」

今ではそれくらいのことは言えるようになっていた。
踏ん切りがついたのかもしれない。

私達の中に同じ血が流れているのだとしても、私は深春のことを愛しているし、手を繋いだり抱き締めあったり、キスをしたいって思う。

そして深春も同じ気持ちを持ってくれている。
これこそが本当の奇跡だ。
愛している人が、自分のことも愛してくれていること以上に、幸せな奇跡なんて無いって今なら思える。

「遺影にしてもらおうか。」

深春が何度も目の形を描き直しながら言った。

「これを?共同のお葬式ならネタくらいにはなるだろうけど。」

「…死んでからの披露宴みたいだね。」

「不謹慎。」

私達は笑って、何度も何度も自画像を描き直した。
死ぬと決めたのに宿題を投げ出さないことも、夏休みが終わることを嘆いているのも可笑しかった。

実感なんてあるはずは無い。
それでも私達はこの計画をやめたりしない。
絶対に。

この愛を貫く為に。
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