やわく、制服で隠して。
日曜日。

玄関が開いて閉まる音で目が覚める。
最近はいつもこうだ。
あれ、でも今日は日曜日…。

ガバッとベッドから起き上がった。
壁掛け時計の針は九時。
カレンダーを見る。やっぱり日曜日だ。
寝呆けてそう思い込んでいるわけでは無い。
日曜日なのに、こんなに早く誰がどこに行ったのだろう。

そう思ってると、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「まふゆ。起きてる?」

「ママ?」

ママが私を呼んでいる。
だとすると、家を出たのはパパだ。

「うん。今起きた。」

「入るわよ。」

ママが部屋に入ってきた。
ママも起きたばかりなのか、パジャマのままだ。

「…おはよう。パパ、どこか行ったの?」

「たまには一人でブラっと出掛けてくるって。」

「そう。いいことだね。」

「…そうね。」

ママの声はいつもより落ち着いている。
それが余計に不安感を煽るのは、どう考えたって家族としておかしい。
パパが出掛けたからといって、今はもう、こんな風に朝から私を呼びにくることなんて無くなっていたのに。

「ママ?どうかした?」

ママは話そうとしていることを少し迷っているみたいだった。
何かを言おうとして、口を開いたけれど言葉は出て来ないまま、口を閉じて、息を吐いた。

私はママが何かを言うまで黙って待っていた。
世間話をしに来たんじゃないってことは分かった。

パパが出掛けたのも偶然じゃないかもしれない。
ママが私と話をする為に、外に出て貰ったのかも。

パパは本当にお人好しだ。
まだ家族を諦めないでいてくれている。
パパが思っているよりもずっと、ヒビは大きくなっているのに。

ママは無言のまま、握り締めた手のひらを私に向けた。
私はベッドから立ち上がって、ママに近付いて手を差し出した。

ぽとん、と手のひらに落とされた紙。
昨日のあの紙だ。

二つ折りだった紙は深春のお母さんに貰った時よりもぐちゃぐちゃに沢山の皺が付いていて、今は三つ折りになっている。

ぐちゃぐちゃにされてちょっと柔らかくなった紙を開いた。
昨日と同じ。聞いたことの無い女の人の名前。
深春のお母さんの旧姓だけがそこには書かれていた。
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