離婚前夜に身ごもったら、御曹司の過保護な溺愛に捕まりました
 しかし、一生胸に抱いていようと思った幸せな思い出が自分の中で薄れていることに気づく。

 ふ、と思わず笑ってしまうと、智秋が不思議そうに顔を覗き込んだ。

「なにかおもしろかったか?」

「最初の夜を思い出せないの」

「ん?」

「ずっと覚えていたかったのに、なくなっちゃった」

 浅い呼吸を規則的に繰り返し、ぎゅっと汗ばんだ背を抱き締める。

「一番幸せな夜だと思ったから忘れなかったのに、もう一番じゃないんだね」

 溶け合ううれしさに浸っているせいで、なんだかおかしな説明になっていた。

 ちゃんと伝えたいと思ったが、そうする前に智秋からやわらかな感触を与えられる。

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