丸いサイコロ

     □

──私は、探しているのだろうか。それとも、見つかってしまうのだろうか。


「おーい……」

 長い夢を見ていたら、間の抜けた声がして、ふと意識が覚醒した。しまった、すっかり眠っていたようだ。シートに張り付いていた汗ばんだ指が、赤くなって、ヒリヒリ染みる。じっとこちらを見ている彼に、なんとなく気まずさを感じて、噛みつくように応えてみた。

「……なんだ!」

「もう、着いたからさ」

細い腕で人をギリギリ抱えながら(腕が震えている。どうにか頑張ってほしい)、彼は、どこか、はにかむようにする。または、何かを耐えるように。その表情が何を示したのかわからず、首を傾げると、窓の外を指される。

「ほら、もう着いた」

 ……本当は、そうじゃないのだが。「そうか」と言い、料金を人数分払い(彼は荷物が増えて、手を使っての支払いが難しそうだったのだ)、そのあと、順に、運転手さんにありがとうございましたと告げてバスを降りた。



 夜中なだけあって、あまり人はいないようだ。辺りは、冷えていて寒い。ほとんど、店も閉まっていて、どことなく寂しくなる。

 ──なんて考えていたら、ひんやりした空気が肌を撫でたので、バスは少なからず暖房が効いていたのか、と今さらのように思った。

ひたすら、前に歩く。
彼はほとんど何も言わなかった。私も話すことがなかった。少しして、環境の変化にようやく気付いたかのように、佳ノ宮まつりがゆっくり目を覚ましたが、様子が変だ。

もともと、まともな性格じゃなかった気もするが、なんだかぼんやりしている。


 幼い子どもみたいに、無垢な目で、真っ暗な空を見る。
ぶかぶかの上着が、なんだか暖かそうに見えた。不安定な表情で、私には見えない何かを数えている。
──ちなみに、その人はもう既に、一人でふらふら歩いていた。 (その前、覚醒直後は、彼をきっ、と睨み付けていた。理不尽だ……)

彼の方は、それに構わず、なんだか上機嫌で、少しだけ不気味に思った。


「……二人も、なんて、知らなかったなあ」

ふと、隣の彼から、小さな、ぼやきみたいな声が聞こえた気がして、聞き返してみると、なんでもないと言われた。


ほとんど何もない道をただただ、歩いた。
一瞬、佳ノ宮まつりは、不思議そうに、『6』と呟いた。何がだろう。

 この人たちの家には、まだ着かないのかと、20分くらい歩く間、私はずっと考えていた。
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