溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
「凪!」



私は何か胸の騒ぐような気配に,頭で考えるより先に叫んでいた。

真理は? 
凪はそう言おうとしたのだろうか。

やめて。言わないで。

ううん,聞かないで。

私の心が,全力で拒否を示していた。

何故なのか私にも分からない。

混乱ばかりが,頭をしめる。



「凪,帰ろう」




分からないから,私は努めて静かに凪に言う。

本当は感情がごちゃ混ぜになって,えずきそうだった。

もし本当に聞かれたら,私はなんと答えただろう。
私が凪をどう思ってるかなんて,考えたこともなかった。

凪は私の何? 私は何に固執してるの?

いつも,いつも……何に,どうして傷ついているの?

私が不自然とも言える笑顔を向けると,凪は分かっていたとでも言うような顔をする。



「うん。そうだね。まだ…か」



凪は何かを呟いたけど,信号が青になって動き出した車の音で,私の耳は何も拾えなかった。


< 13 / 196 >

この作品をシェア

pagetop