溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
どうしても気分が晴れなくて,ましてや笑う事なんて出来なくて。

まるで私は,入学したての頃のような静かな心で生活した。

一日中そんなんだから,昼休みにはとうとう千夏くんや真中さん,遊びに来ていた美希さん達に心配されてしまって。

それでも,綺麗に笑うことは出来なかった。

少しだけ意味もなく教室に残って,その後帰ろうと下駄箱へ向かうと。

変な時間で誰もいなく,しんとしていた。

いつの間にか弱くなっていた雨のおとだけが,ピチピチと聞こえてくる。

いつもの事なのに,そこに誰もいないことが少しだけ堪えた。

いつもの場所で待ってても,凪は来ないんだ。

分かってるのに,分かりたくない。



「真理……? そんなとこで俯いて,どうかした?」



自分には出せない心地よいアルトの声。

思わず振り向いた私は,失礼にも数秒固まる。



「……あ,千夏くん」
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