公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する

第14話 ルーナと義兄



ヒューバートと2人、出勤するために騎士団に向かって歩いていた。


「見送りしてくれるなんて、ルーナさん可愛いですねー」

確かに可愛いかった。
ヒューバートが俺を見てニタニタしている。

「なんだ?」
「団長、顔がにやけてますよ」
「俺はにやけたりなどせん」
「しかし、よく銀髪だとわかりましたね」
「どう見たって銀髪だろうが」
「いやー、少し銀髪かなぁとは思いましたけど……」

確かに艶はあまりなかった。
邸に持って来たのも、古びたケース一つだったし……。

「……もしかして気にしていたのだろうか?」
「女の方は髪を気にするでしょう」
「そういうものか? だが、夜空に映えて本当に銀髪で綺麗に見えたのだが……」
「……団長、夜空にって、夜逢い引きでもしているんですか?」

しまった!
つい言ってしまった!

「……」
「今さら隠さないで下さいよ!」
「……実は、隣の部屋にいるんだ」
「隣? 部屋の隣は元々逢い引き用の部屋だったのを団長が書斎にするって言ってたじゃないですか」

そうだ。あの部屋は元々逢い引きや夫婦がこっそり移動するのに作られた部屋だが俺は移動しやすい用に書斎にするつもりだった。
だが、あまり邸に帰らずそのままになっていたのを、ルーナの部屋になったのだ。

「夜に逢い引きしてるんですか? ……本当に犯罪はやめて下さいよ。俺引き取りに行くの怖いんですけど」
「犯罪などせん! 夜に二人で話しているだけだ!」

そうだ。二人で話しているだけだ。
昨日のも様子を見に行っただけで決して覗きの為ではない。

そう思いながら、今日は鍛練に励もうと思った。


騎士団内で汗を流し鍛練に励んでいると、団員達は、街の見回りの時間だと準備を始めていた。

見回り……。
ルーナたちが買い物に行った筈だ。

「団長も見回りに行きますか? さっきから鍛練ばかりですよ」

ヒューバートは疲れたとベンチに座り込んでいる。
だが、疲れたといいながら、鍛練が面倒くさくなっているだけだ。

「ヒューバート、見回りに行くぞ」
「やっと鍛練は終わりですね」

もしかしたらルーナに会えるかもしれない。
そう思うと、急ぎ支度をした。
我ながらこんな事を考えるのは初めてだった。

「昼飯もこのまま外で食べますか?」

ヒューバートが見回りをしながら聞いてきた。

ルーナはどこにも見当たらない。
それもそうだ。
行く店も聞いてない。
偶然会えるはずもない。

「団長、昼飯はステーキでも食べますか?」
「好きにしろ」

その時、ヒューバートに女二人が寄ってきた。
どうやら知り合いらしい。

「ヒューバート様、あの角で騎士様たちが女の子に突っ掛かっているんですの! 大丈夫でしょうか?」

どうやら、あの角で騎士の恥さらしがいるらしい。
俺の団員にはそのような者はいない筈だが……。

「団長、行きますか?」
「あぁ、すぐに行くぞ」

ヒューバートは女達に手を振り走ってきた。




街角を見ると目を疑った。
騎士に突っ掛かってこられている女の子はルーナだった。

なんて事だ!

すぐに飛び出そうとしたが、ヒューバートが少し聞きましょう。と止めた。
真剣なヒューバートの顔に拳を握りしめ、ぐっと我慢した。



「ファリアス公爵に捨てられて街娘にでもなったか? お前はドワイス家の恥だ。女のくせに髪もボサボサで何を考えているんだ」

いけすかない騎士に、ルーナは下を見つめていた。
ハンナは怒り言い返していた。

「お嬢様を侮辱してはいけません! カイル様がなんとおっしゃるか!」
「カイル様? ファリアス公爵から婚約の話は来ていないぞ! 大体もし公爵がこんな娘を選ぶなら大したことはない! 嘘も大概にしろ! 騎士への侮辱だぞ!」

いけすかない騎士に、ルーナは何か言い出した。

「……めて下さい……」

ルーナ?

「やめて下さい! カイル様やハンナさんにひどいことを言わないで下さい!」

驚いた。
ルーナが俺やハンナの為に怒ったのだ。

「ヒューバート、もう我慢できん!」
「俺もです!」

俺とヒューバートは飛び出し、ルーナを殴ろうとしたいけすかない騎士の間に入った。

いけすかない騎士の手を俺が弾き、怯んだ隙にヒューバートが地面に抑えた。

「何をするんだ!」

地面にうつ伏せに抑えられた、いけすかない騎士は俺の顔を見て、青ざめた。
さっきの勢いはどこに行ったのかと思うほどだがそんなことはどうでもよかった。

「貴様所属の騎士団はあるのか?」

騎士団は名乗ることのできる所属に入っている騎士以外は王都付きのただの騎士で、ヒューバートや俺のように所属の騎士団なら少し上になる。

「俺は、第3騎士団の団長をしているカイル・ファリアスだ」

いけすかない騎士とその連れの見ているだけだった騎士は益々青ざめている。

「後ろの騎士はどうだ? 名乗れないのか?」

ギラッと睨むと慌てて頭を下げ名乗り始めた。

「し、失礼しました! 俺達は第10騎士団所属です! 彼は、彼女の義兄です!」
「ルーナの?」

気がつけば、俺はルーナを抱き寄せていた。
いつの間に! と思ったがルーナはしがみつき泣きそうなのを我慢しているのがわかった。

可哀想に……、辛い思いをしたのだろう。

「ルーナ、義兄君なのか?」
「そ、そうです!」

何故ヒューバートに抑えられている貴様が言うんだ!

「貴様には聞いてない!」
「……はい……ディルス義兄上です……」
「そうか。ディルス、ルーナは俺が婚約者候補として受け入れた。16歳になるまで婚約は出来ないがあと2ヶ月は許嫁として邸で預かる。後日正式にドワイス家に伺う。いいな!」

抑え込んでいるヒューバートを見ると、口元は笑ったままだが、目は笑ってない。
珍しく怒っているのがわかった。

「ヒューバート、離してやれ」
「いいんですか? 腕一本位軽く折れますよ」
「止めとけ」

ヒューバートがディルスを離すと慌ててディルスはヒューバートから逃げるように離れた。
ヒューバートに腕を折られると思い恐ろしくなったのだろう。

「この件は第10騎士団団長のバーナード様に苦言を申し入れる。騎士の恥だ!」

ディルス達二人は青ざめたまま頭を下げ走り去った。

「ルーナ、大丈夫か?」
「カイル様、すみません……私……」
「俺とハンナの為に怒ってくれたのだな」

ルーナは糸が切れたように声を殺し泣き出した。

「ルーナ、大丈夫だ。……俺がいる」

ルーナをマントで隠すように抱き締めた。

「団長、レストランの個室でも行きましょう。ハンナさんも一緒に来て下さい」

周りの注目の的になってきているせいか、ヒューバートが気をきかせ、皆で近くのレストランの個室に行く事にした。

俺はルーナをマントの中に入れ、ルーナの肩を寄せると、ルーナはしがみつくようにくっつき、そのまま二人で歩いた。






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