公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する

第16話 赤い薔薇一本の意味



少しだけ落ち着いたルーナとハンナの為に馬車を呼び、二人を馬車に乗せた。
ルーナは少し落ち着いたとはいえ、窓から不安そうに顔を出した。

「今日は早く帰るから部屋で待っていなさい」
「はい、待ってます……カイル様ありがとうございます」

こんな時でも、ありがとう、と言えるルーナは立派だと思った。
もしかしたら、芯がしっかりしているのかもしれない。

ルーナを乗せた馬車は走り見えなくなった。

「ヒューバート、第10騎士団の団長バーナード様の所に行くぞ」
「ええ、すぐに行きましょう」

第10騎士団の所属は貴族が多かった筈だ。
ディルスは連れ子なら、ルーナの父親は養子にしたのか?
ルーナの父親とはいえ、愚か者だと思った。
俺はあのような愚か者が嫌いだ。


ヒューバートと馬を走らせ、第10騎士団の建物に向かった。

そのまま、バーナード様の執務室に行くと、ディルスと見ていただけの騎士が叱責されている。

「バーナード様、失礼します」

バーナード様は50歳ほどの騎士団長だ。

もう実戦に出ることはないが、王都にて主に王族の警備や街の警備を担っており、騎士たちの育成にも関わっている。
所属に貴族が多いのは実戦に出ることを嫌がった者たちや主に親たちがバーナード様の所属に入れているらしい。
そのバーナード様自身も公爵だ。

「カイル、話は聞いた。すまなかった。二人はしばらく謹慎させる。ディルスは特に揉め事の当事者だ。1ヶ月の謹慎にする」
「バーナード様、揉め事ではありません。ディルスの一方的なことです」

バーナード様はジロリとディルスを睨んだ。
一方的に、ルーナを見下し責めたのと言えなかったのだろう。

「ルーナはバーナード様の紹介でしたね……」
「そうだ、ディルスに年頃の妹がいると聞いて紹介したのだが……」
「ルーナを紹介してくれたことは感謝してます。だが、ルーナを侮辱する行為は無視できません」
「彼女と婚約をすると、ディルスから聞いたが、間違いないか?」
「はい、婚約します。ですがまだ、16歳になって無いので今は許嫁という肩書きにします」
「そうか、彼女にも謝罪に行こう。紹介した責任もある」
「ディルスは邸には入れませんし、今夜はゆっくり休ませたいと思います」
「なら私だけで行くとする。明日謝罪行こう」

バーナード様が処分を決めて下さっていたおかげで話はすぐにすんだ。

「ヒューバート、今日は早く帰るぞ」
「それがいいですね。ルーナさんは、心細いでしょうから……」

ヒューバートと自分達の騎士団に帰りながら話していた。

「……今日はお前をしごいてやろうと思ったのに、すまん……」
「全然いいです!」
「腕は落ちてないようで安心した」
「団長といたら腕は落ちませんよ」
「……近いうちにドワイス家に行く。ルーナの護衛に一緒に来てくれ。頼む」
「いいですよ。また酒を飲ませて下さいね」
「上等のワインを出してやる」

ルーナは邸で泣いていないだろうか?
早く帰ってやりたかった。

執務室に帰り、ヒューバートが変われる仕事は変わってくれた為、予定より随分早く終わった。

落ち込んでいるだろう。
何か買って帰ればよかったか、と思った。
庭を見ると庭師のマシューが水やりをしていたのが目に入り薔薇を貰いに行った。

「マシュー、薔薇をくれ」
「カイル様もですか?」
「俺も?」
「今朝ルーナ様も薔薇を貰いに来ました。赤い薔薇一本です。意味を知っているんですかね。まあ、花瓶の薔薇に色を添えたかっただけかもしれませんが……」
「薔薇に意味があるのか?」
「赤い薔薇一本は、あなただけ、って意味ですよ」
「……ルーナは赤い薔薇一本を持って行ったのか?」
「はい、そうです」

思わず、口に手を当ててしまった。
意味を知っているのか? 偶然か?

「カイル様も一本にしますか?」
「……そうしてくれ」

微笑ましくこちらを見たマシューが薔薇に赤いリボンをつけて一本だけ渡してきた。

薔薇を持ちルーナの部屋に行くと、ルーナはぬいぐるみを抱えて座っていた。

「今帰った」
「おかえりなさいませ、カイル様」

立ち上がり小走りに駆け寄って、おかえりなさい、と言ってくれる。
こんな時でもルーナが可愛いと思う。

「ルーナ、マシューから薔薇を貰ってきた」

一本の薔薇を差し出すと、ぬいぐるみを片手に受け取ってくれた。

「私に……? 私も今日カイル様の花瓶に赤い薔薇を足したんです」
「マシューから聞いた。……薔薇の数の意味を知っているのか?」
「数? 数がどうされました?」

やはり知らずたまたま一本にしただけか。
……少しだけ期待していたのだが。

「カイル様? もしかして、赤い薔薇はお気に召しませんでしたか? ……カイル様?」

何も知らないルーナを目の前に、言葉に詰まってしまう。

「……赤い薔薇一本は、あなただけ、という意味があるそうだ」


言わない方がよかったか。
ルーナを困らせることになるか。

「し、知りませんでした。……でも、間違いありません……」

ルーナは頬を染め横を向きながら言った。
照れているのだろう。
俺まで赤くなりそうだった。

「俺も間違いではない。ルーナと一緒だ」
「本当ですか?」
「ああ……」
「赤い薔薇大事にします」

ルーナが笑顔で言ってくれた。
薔薇を持ってきてよかった。
明日も何か贈りたい。
ルーナが笑顔になるなら何でもしてやりたいと思った。





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