この政略結婚に、甘い蜜を
恐る恐る傑の方を見れば、傑は少し俯いて申し訳なさそうにしていた。学生時代、一度も見ることのなかった弱気な顔である。

「その、俺、えっと……」

傑はなかなか言い出そうとはしない。華恋がジッと待っていると、「あそこ入らへん?」と近くにあるどこかレトロな雰囲気の喫茶店を指差す。

「あそこで話すから、聞いてくれへん?」

再び視線が絡み合う。傑の頬は赤く染まっており、どこか真剣なものだった。決して恐怖がないわけではない。だが、このまま帰るのはよくないと華恋は考える。

(五百雀くんが歩み寄ってくれたんだから、私も彼を見つめるべきだよね)

これは、知らず知らずのうちに零から教えてもらったことだ。

零はずっと華恋に想いを寄せており、優しく接してくれていた。彼なりに歩み寄ってくれていた。だが、それからずっと逃げ続けて彼を傷付けてしまったのは華恋自身だ。

(また傷付けられるかもしれない。だけど、このまま帰ったら五百雀くんを傷付けるかもしれない……)
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