これは、ふたりだけの秘密です


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真理亜は生後半年の可愛い盛りだ。
怜羽が疲れた顔をしているのも、夜中に真理亜が起きたせいだろう。

三ヶ月前、怜羽は留学していたパリからいきなり赤ちゃんを抱いて帰ってきた。
それが真理亜で、『この子は自分の子だ』と怜羽は言い張った。

大学卒業後、家を飛び出してパリに行っていた娘が
いきなり赤ちゃんを連れて帰国したのだから、両親は声も出せないほど驚いた。
兄姉も怜羽にはこれまで親密な交際をした男性は皆無だったと知っていたので、
子どもを産んだとはすぐには信じられなかった。

その頃の真理亜はようやく首がしっかりしてきた時期だった。
小笠原の屋敷で目覚めた時、見慣れぬ風景に泣きもせず
目をパッチリと見開いて辺りを見回すような仕草を見せた。
天使のように愛らしいその姿に、大人たちは見とれてしまったほどだ。

怜羽は子どもの父親のことは頑として明かさず、真理亜は自分ひとりで育てると言う。

調べさせたら怜羽の実子でないことはすぐにわかったが、
事情があって怜羽とは上手くいっていなかった家族の方が折れた。
怜羽が子どもを育てることに同意したのだ。

始めはしぶしぶ真理亜を受け入れた小笠原家の家族や使用人たちだったが、
赤ちゃんが成長するにつれ、その愛らしさに魅せられていった。

いつもは気難しい顔をしている倫太郎が真理亜には笑顔を見せるし、
和泉や彩乃は抱っこしたくてたまらない表情を見せる。
孝臣ですら、自社ブランドの粉ミルクを購入してくるほどだ。





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