これは、ふたりだけの秘密です
家族ごっこ



梅雨が明けて、太陽がギラギラと遠慮なく照りつける季節になった。
片岡地所の力もあってか、郁杜からはすぐにマンションが見つかったと連絡が入った。

ちょうど怜羽が中野の商店街に出かけるところだと告げると、
郁杜は一緒に物件を見に行こうと誘ってきた。


怜羽は待ち合わせ場所として、駅から少し離れた裏通りにある服飾雑貨店を告げた。
この店とは、近くの大学でデザインを学んでいたころからの付き合いだ。
今は妻に先立たれた店主の杉山(すぎやま)老人がひとりで店番をしている。

ここは昭和レトロな趣のある構えで、中には壁面一杯に数えきれない種類のボタンやレース、毛糸や端切れまで置いていた。
かつては賑わった店だったが、最近はめっきり寂れていたのだ。

この店に愛着があった怜羽は、閉めてしまってはもったいないと思い
帰国してからTOWAの事務所のように使わせてもらっていた。

怜羽が契約している会社経由でTOWAの商品を取り扱えるように計らい、
怜羽がデザインした布だけでなく、ハンカチなどの小物や雑貨をここで売り始めたら、最近では若い女性客が増えてきている。
週末には、杉山の孫にバイトを頼むまでになっていた。



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