これは、ふたりだけの秘密です


真理亜が病気になって心細くて震えていた時、
郁杜に抱きしめられてどれだけ安心することができたことか。
彼の優しい抱擁を思い出すと、じんと胸の奥が熱くなる。

ずっと郁杜の側で妻として暮らすのがあたり前だと思い込んでいた。
いや、怜羽は思い込もうとしていた。

嘘の上に成り立っていた関係だったのに、本物の家族になれたと錯覚したのだ。

やはり、結婚を受けるべきではなかった。
亡くなった朱里に真理亜をひとりで育てると誓ったのだから、それを貫くべきだった。

朱里の言葉が怜羽の胸に蘇る。

『恋すると、なにも見えなくなっちゃったの』

朱里の言った通りだ。

郁杜に恋した怜羽は、自分の手で憧れていた暮らしをぶち壊したのだから。






< 154 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop