これは、ふたりだけの秘密です
怜羽の過去


一階の最奥に、亡くなった祖父が使っていた洋間があった。

そこは、祖父を介護するために造られたもので、
簡単なトイレ付きのバスルームとキッチンも取り付けてあるから
真理亜を育てている怜羽には大助かりだ。

怜羽はその部屋に入った途端、日菜子に顔を向け人差し指を口の前に立てた。

「今、日菜子さんが聞いた話は内緒にね」
と小さな声で言う。

「あの……真理亜さまのパパのことですか?」
「そう。ひ・み・つ」
「は、はい……でも……」

「なあに?」

「ご立派な方じゃあないですか、片岡様は。どうして内緒に……」

彼女から見たら、片岡郁杜はルックスもいいしお金持ちで独身の男性だから
真理亜の父親だと胸を張って言えばいいのにと思っているのだろう。

「どうしてご家族に内緒にしなくてはいけないんでしょう?」

真っ直ぐな性格の日菜子は、『内緒にね』と言う怜羽の言葉に不満そうだ。

だが、怜羽と家族の間には真理亜についてなにも話さなくてもいいという暗黙の了解があったのだ。



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