これは、ふたりだけの秘密です
「それで、朱里との連絡を絶ったんですね?」
「彼女に別れを言うのが辛くて……」
何て酷い男だろうと怜羽は思った。
朱里を愛していると言いながら、自分のことしか考えていないように見える。
なぜ、きちんと朱里に母親の病気を話さなかったのだろう。
優しい朱里はきっと理解しただろうに……怜羽の心は怒りと悲しみで震えた。
「朱里は、もっと……辛くて、悲しかったんです」
颯太の慟哭が聞こえたが、怜羽の心は次第に醒めていった。
悔しいが、どれだけ嘆いても朱里は二度と帰らない。
(この人に、真理亜は絶対に渡さない)
怜羽は、真理亜の存在をひと言も颯太に告げなかった。
しばらくして、やっと落ち着いた颯太は顔を上げた。
「朱里が亡くなったことをわざわざ伝えに来て下さったんですか?」
「はい……」
「遠いところをありがとうございました」
絞り出すように礼を言うと、颯太はもう一度深く頭を垂れた。