ノート
不思議でたまらない。
「我慢していろよ。他にすることないのか」
「ないよ」
笑顔で言われる。
本当に、暇人みたいだ。
こいつ誰なのだろう。
俺の行く先々に現れなくたってよくない?
店内に入ろうと、歩みを進めたら、ついてくる。
その店は、昔からあるとこで、狭いながらにぎっしり商品を詰め込んだような場所。
客はなんとか通る場所がある感じだったが、近いし、馴染みがあるしで、わりとみんなに親しまれていた。
手慣れた感じにアイスのあるコーナーを見つけると、もなかのやつを蓋を開けて取り出す。ボールみたいなやつはまた今度にした。
「これこれ、っと……」
「本当に、アイスが好きだな」
「びっくりした!!」
後ろから囁かれて仰け反ると、居たのはそいつだった。
「買い物にきちゃ悪い?」
「いいとか悪いとかじゃないよ」
にらんでいると、うさぎが、べーっとやっているイラストの描かれたアイスを手に取り、彼は、「おれ、これが好きなんだー」
と言った。
至極どうでもいい。
無視して、商品をレジにもっていった。
会計をしている間は、いろんなことを考えた。何を考えたかは、あまり意識しなかった。
帰宅してみると、身体にあせもがひろがっていた。ポケットから出した局所麻酔剤が微妙に配合された痒み止めを塗る。
塗りながら心にも麻酔はあるんだろうか……
などと謎なことを思う。あるのなら、きっとそれは言葉だろう。
「あー、痒い、やっぱ痒い」
やっぱり痒くて、ついチューブを投げ捨ててしまう。
敏感肌というか、ただでさえイライラすると痒くなる肌が二重に痒くなって悶える。
やばい、これじゃあ好きな相手の前で服を脱げない、などと自虐してみたけどなんの意味もないそれは余計に俺をむなしくさせる。
外に出て空気でも吸おうと一階に降りた。
戸を開けて玄関から出ると、ポストには紙が入っていた。
「またか」
ぐしゃぐしゃに破れて、ゴミみたいになった紙。「櫻井」 と書いてある。
数日続いていたが、誰かの間違いだと思って気にしたことがなかった。
紙をとりあえず、近くの地面に投げた後で俺はめいいっぱい酸素を吸い込もう、と呼吸をした。
視界の横では名前も知らない植木が、日光に照らされてきらめいている。というか、暑い。
夏を物語るようだった。
頭の片隅で、誰かが勝手に投函していく紙のこと、行き先を把握している謎のストーカーについてを考えてみる。
同一人物がやってるんだろうか。
きっと、この名前の人物について何か思わせたいのだろう。