ノート
この中身は、俺が大事にしている宝物。
言葉記録メモと読んでいたけれど、実際の名称はなんだってよくて、
口下手な自分に理解者が居たらいいなという妄想で生まれている、自分を励ませそうな言葉を綴るだけの記録帳。
小さい頃、心理カウンセラーになろうとしたときに、相談にのってくれたカウンセリングの先生が言っていたことを忠実に守っている。
毎日、記録をつけること。次の日、そのあなたを励ますこと。
友人の死後、毎日心を閉ざし続けていた俺は、今も日課を守っていた。おかげで、最近はよく眠れる。
愛着がありすぎて、ノートを握りしめたまま寝てしまうこともあったくらい。
これだけあれば、明日も眠れる。
誰に当たることもなくて友達とも笑顔で居られる。
遅刻ギリギリで教室に入ると、友人たちにセーフだなと出迎えられる。
ノリで、いえーい、と意味もなくはしゃいだ。それから、しかし今日も暑いな、わかる、とまったく意味なさそうな会話ばかりした。
授業は、あまり頭に入らなかった。
事件の日から。
俺は、記録帳に不安を記録する以外には、感情を浪費しなくなった。
ただ、へらへら笑ってる。
卒業や進路よりも早く死んでしまう方が楽なのにということしか頭になかった。
俺が悲しかったように、誰かが悲しむとしても。
学校から帰宅したあと部屋にすぐ向かったらノートの位置が、また変わっていた。
誰かが出入りしているのだろうか。
心の中にまで物理的に入られた気分で、正直いやな感じ。
記録をつけてきたおかげで、俺は自分を保てていたけれど、 それを部屋に来てまで勝手に読まれていいかと言われたら嫌だ。でも、そんなことはきっと起きないはずだ。
なぜなら無理矢理やればそれは犯罪だから。
犯罪なんか普通しないから。
そう、油断していた。