跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
愛佳の口から語られる加藤の再建手段は、どれもこれも考えの浅いものだった。それはまだ、彼女の経験値が低いのだから仕方がない。
けれど、加藤製陶への思いの深さは十分に伝わった。

加藤製陶を潰すのは惜しい。それは事前に調べた段階でもたしかに感じたが、助けるのは自分でなくてもいいと切り捨てていた。

が、この時点でその考えは百八十度変わった。
愛佳が大事にしている加藤製陶が衰退するのを、俺は見過ごせない。

断る前提の見合いだったはずなのに、自由奔放でまっすぐな愛佳に堕とされたのは俺の方だった。
それがやけに悔しくて、『飼ってやる』なんて言葉を遣ったのは大目に見て欲しい。


ぐっすり寝入った愛佳に視線を落とし、額にそっと口づける。わずかに身じろいだが、そのまますぐに規則正しい呼吸が再開した。

加藤製陶の業績不良で奮闘する中、愛佳にはあれもこれもと考える余裕などまったくないだろう。かわいい見た目に反して少々大雑把な性格らしい彼女には、会社のこと以外に気を配るのは無理そうだ。まあ、足らない部分は俺が補えばいいのだが。愛佳になら、陰でフォローしてやるのもやぶさかではない。

愛佳のためにも、まずは仕事の面で安心させてから本気で好きになったと伝えて、男として迫る気でいた。
焦る気持ちはいっさいない。俺たちはすでに籍を入れているのだから。

少しずつ信頼関係を深めて、彼女が俺を男として意識するように仕向けていく。そのうえで、本当の意味で夫婦になるつもりだった。当然、拒否させるつもりはない。

すぐにでも愛佳を自分のものにしたかったが、なんとか耐えてきた中、まさかあんなふうに煽られるとは……。

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