桜が咲く頃に、私は
教室に入ると、そこはいつも通りの空間。


仲の良い人達が集まって話をしたり、宿題を忘れて他の人からノートを借りて必死に写したり。


このなんでもない日常の風景も、私には見納めなんだと思うととても愛おしく思える。


いや、何もこれだけじゃない。


夢ちゃんと迎える朝も、翠との登校ももう二度とない時間だったんだ。


「よお桜井。随分眠そうな顔だな。私も男とメッセージのやり取りしてて眠くてさ」


自慢げに深沢がスマホを見せて来るけど、これも微笑ましくて。


「てか聞いてよ桜井。姫ちゃんさ、自撮りをめちゃくちゃ加工して送ったから、相手はこんなにブクブク太ってるなんて知らないんだよ? 詐欺だよ詐欺」


「うおーい、百合子! せっかく自慢してんのに誤魔化してんのをバラすんじゃねぇよ! お前の彼氏にすっぴん写真を送るぞこの野郎!」


「やめて。お願いだからやめて」


目の前で深沢と佐藤が笑いながら、私の日常が通り過ぎて行く。


まだ余命が残っている時は感じなかった、過ぎ去った時間が消えて行く感覚。


過去を振り返っている余裕も、立ち止まる時間もないんだと、世界が言っているかのようだった。
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