桜が咲く頃に、私は
「俺は……間違ってない。花子も夢も、俺がいない生活に慣れるべきなんだ。ある日突然、俺がいなくなったら、悲しみだけが残るだろうから」


そうか、天川の悲しそうな目は、きっとそれを思ってのことだったんだろうな。


私には、そういう人はいないから……だから死ぬまでに何かを求めているんだ。


大切な人のことを考えている天川とは、正反対のことをしようとしている。


「私にはよくわからないわ。でも、いつか聞かせてくれよ。天川の人生は間違ってなかったかどうかをさ」


いつか……そう、天国で出会うことがあったら、生き返った日々のことを。


「空でいい。皆そう呼んでるから」


「あっそ。じゃあ私のことは早春と呼べよ。空」


「……なんか腹立つな」


そんな話をしていると、夢ちゃんがお風呂から上がってこの部屋にやって来た。


「お兄ちゃん、お風呂空いたよ。さっさと入ってよね。洗濯する時間が遅れるんだから」


「はいはい。今日も我が妹は所帯染みてて口うるさくて、安心したよ」


笑いながら立ち上がった天川……空は、そう言いながらも少し嬉しそうな表情で着替えを取り、お風呂場に向かって行った。
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