俺にしときませんか、先輩。

由都side







「ゲームしたい」


次はどこに行こうか話していた時、先輩が呟いた一言。


たしか、この近くにはゲームセンターがある。

そこに行こうということになって、残りのパンを鞄にしまって歩き出した。

5メートルくらい進んだ先で、漂いながら迷っていた手を思い切って繋ぐと、それに応えるように先輩も握ってくれて。


…あー、やばい。

今、めっちゃにやけてる自信がある。


黒に染まりかけている空に、まだもうちょっとこのままでいたいという欲張りが顔を出す。



「由都ってぜったいモテるでしょ」


数分歩いたところで、ふいに先輩が聞いてきた。



「告白は何回かされます」

「やっぱり」

「でもちゃんと断ってます、好きな人いるからって」

「よっぽど好きなのね」

「はい」



……先輩のことですよ。

諦めようとしてもできなくて、突っ走ろうと思っても下がってしまったり。

感情が忙しく動くのは、ぜんぶ先輩だからで。


これだけは断言できる。



「その人のこと、一番想ってる自信、あるんです」



まっすぐ目を見てそう言うことはできたのに。

秒で逸らしてしまった視界では、先輩の顔なんか直視できなくて。


いっそのこと、もう男らしく、ぜんぶ言ってしまえばいい。

それなのに続く言葉は出てこない。


……あー、俺のバカ。


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