セカンドマリッジリング ―After story—


 遠慮して話せば、電話の相手はすぐに颯真(そうま)が自分の思い通りになると思って自分勝手な意見を押し通そうとしてくる。それは子供の頃から変わってないので、颯真も言いなりになるつもりはない。
 学生時代は出来の良い兄と同じようにと、両親の言葉を第一に考えてきたが今の彼は違う。颯真にとって一番大切な花那(かな)という存在ができたから。
 だが……

『どうせすぐに辞めることになる仕事じゃないの。お父さんだって貴方のためにそれなりの役職を用意するつもりでいるのに、何が不満なの?』
「俺は医者を辞めるつもりなんてないよ、どうしても人が必要なら手伝いくらいはするつもりだけど」

 もちろん颯真だって両親がただの従業員を欲しがっているのではない事くらい分かっている。彼らが望んでいるのは深澤の跡取り、次期社長という立場の人間だ。それも失踪した長男の代わりに用意したお飾りの。
 颯真は自分の仕事に誇りを持っている。両親の役に立ちたい気持ちはあっても、転職をする気は欠片もなかった。

『颯真さん、貴方いつからそんな我儘を言うようになったの? やっぱり……花那さんが原因なんだわ、あの人が来たせいできっと涼真(りょうま)も!』
「母さん! 花那と兄さんのことは何も関係ないだろう! 勝手な言いがかりで彼女を悪く言うのはやめてくれないか」

 花那が深澤家にとってなんのメリットもない結婚相手だったのは事実だ。借金返済に追われていた彼女は、自分にとって都合い良い契約結婚の相手だったのだから。
 それでも今は違う、お互いに愛し合い助け合ってそばにいることを望んでいる。そんな花那をよく知りもしない母に悪く言われるのは我慢できなかった。


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