ショウワな僕とレイワな私
時代の境無く

「愛おしい」

咲桜が戻ると、居間には変わらず親子三代、清貴(きよたか)清浩(きよひろ)、そして清紀(きよのり)がいた。テーブルの上にあったティーカップは2つから4つに増えている。

「すみません、わざわざここまでしていただいて」

咲桜は少し肩身が狭いような気がしながらソファーに座り直した。

「大戸さん……これ以上のお願いは迷惑かもしれませんが、一度、うちの菩提寺に一緒に行ってもらえませんか」

さすがにそこまでしてもらうのは申し訳ないと思った咲桜は断ろうと思ったが、すかさず清浩が続ける。

「ちょっとこの手紙を読ませてもらったんですけど、清士さんも大戸さんに一度お参りに来てほしいって書いていたみたいだし……どうですかね、どっちにしろ僕らは3月になったら行くんで、その時にぜひ」

下を向いていた咲桜は清浩を一瞥(いちべつ)した。

「どうしてそこまでするんですか、私はあなたたちからしたら赤の他人ですよ。確かに私は清士さんと会って一緒に過ごしましたが、ただそれだけなんです。別に最期まで一緒にいたわけでもないし、家族じゃないのに」

清貴は深く息を()いて、語りかけるように話し出した。

「大戸さん、実はね、私の祖父……つまり私の父であり清士さんの弟にあたる清義(きよのり)と清士さんのお父さんが、清士さんの遺した手紙と遺書を読んで、この大戸さんへの手紙がきちんとあなたの手元に渡るように、大切に取っておこうと私の祖母と父に言ったそうで。清士さんは、あなたにこの手紙を届けることが最後の頼みだと、そうおっしゃっていたんですよ。それで私たちは、この手紙を祖父から父へ、父から私へと大切にこの日まで守ってきたんです。どうか、私たちの気持ちを受け取っていただけませんか」

咲桜は清貴が頭を下げたのを見て慌てて腰を浮かせた。

「いや、あの、すみません。私も成田家の皆さんがそこまで真剣に考えていらっしゃるとは思わず……タイムトラベルなんてなかなか信じていただける方も多くはないので」

「それで、大戸さんも一緒に行ってくれますか」

清浩は少し乗り出すような勢いで咲桜に問いかけた。

「皆さんが私も一緒に行ってもいいと言うのなら……ぜひ、お願いします」

咲桜はペコリと頭を下げた。

こうして咲桜と成田家の面会は終わり、咲桜は大きな邸宅の並ぶ厳かな街をあとにした。なんとなく、どこか晴れがましいような気分である。
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