門限やぶりしようよ。

籠の鳥

 電車の窓から流れる景色はいつも変わらない。私はこれを数えきれないくらい、何度も何度も繰り返し見るだろう。大学を卒業するまでに。

 スマートフォンとBluetoothで繋がったノイズキャンセラー機能がある優秀なイヤホンは周囲の雑音を見事に消してしまう。

 今、もし世界から音楽が無くなったら私は死んでしまうかもしれない。鼓膜をふるわせるただの振動に、そこまでの意味を見出している人は、世界にもきっとあまり多くない。

 けれど、最初の一音が聞こえると世界が変わる。灰色の世界に色彩が溢れる。こうやって、自分の世界に浸れる時は電車の通学の時間だけ。

 そうして、心のどこかで思う。私じゃない誰かになって、どこか遠いところに行きたい。

 自分の未来なんて、もうずっと幼い頃からわかっていることだ。親に敷かれたレールに乗って、これからもバカみたいに決められた道を走るしかない。そうして、狭くて閉鎖した空間に押し込められているような鬱屈した気持ち、それを死ぬまでずっとずっと味わう。

 やがて見ていた窓に、ぽつりと一粒の雨が落ちてどんよりとした灰色の雲から膨大な数の仲間を引き連れて電車を濡らす。

 籠の中の鳥は大空を飛べるはずの翼など持っていても、何の意味もない。出入り口に鍵をかけられてどんなに頑張っても自由には、きっとなれない。
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