門限やぶりしようよ。

隠れ家

 彼が選んだレストランは、店構えや明る過ぎない照明なども趣味が良く入り組んだ路地の中にあり、まるで隠れ家のように思えた。

 これから、今までの人生でやったことのない悪いことをしてしまう背徳感。そして、年下の綺麗な顔をした男の子との世間一般ではデートと言われる状況に、胸は高鳴るばかりだった。

「そういうお嬢様って、運転手付きのリムジンで通学してんのかと思ってた」

 二人とも店員に日替わりのパスタを頼み、待っている間に彼は言った。なんとなく彼が持つ『お嬢様』のイメージはあったらしい。

「高校まではそうしてもらってたんだけど。どうしても、大学生になったら電車通学がしてみたくて。それに電車の中で音楽を聴くのが、好きなの。私じゃない誰かになって、ここじゃない何処かに行けてしまいそうで」

「へー。俺とかは電車は仕方なく使ってるけど……そういう感覚の人も、中にはいるのかな。お姉さんがいつも電車に乗っている時に音楽を聴いてるのは、そういう理由?」

 若い女性の店員が料理を運んできて、テーブルの上に美味しそうなパスタとサラダを並べた。一旦会話は途切れ、彼は続きを促すように私に顔を向けた。
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