魔女のはつこい
ラリマの視線がセドニーからタイガに移ったのが分かる。タイガはそれに気付き一瞬視線を交わしたかと思うとすぐにアズロへと戻した。

タイガは物言わず最初からアズロを見定めていた事をアズロは気付いている。アズロ自身はラリマとタイガ、両者に視線を向けた後はセドニーの師であるラリマの方へと集中していた。タイガの反応にふわりと笑みを浮かべると十分に間をとってラリマはようやくアズロに目を向けた。

彼女は黙ったままアズロを見つめていたかと思うと笑みを深めて立ち上がる。

「初めまして、私がセドニーの師であるラリマよ。セドニーから話は聞きました。」

改めて貴方から聞かせてくれるかしら、そう続けた言葉を受けてアズロはセドニーの横に並ぶとようやく口を開く。

「俺は黒ヒョウの魔獣アズロ。セドニーの師である貴女にセドニーを俺の対の魔女として交わす事を認めていただきたくここに来た。どうかセドニーに俺を占う許可を与えていただきたい。」

堂々たる佇まいに通りのいい声はこの部屋の中にいる全員に彼の存在を強く知らしめた。彼の両手は拳を握りアズロの言葉に強い思いと力が入っていることが伝わってくる。昨夜と同じように真っすぐな眼差しでアズロはラリマに挑み、そして願い出た。

ラリマはアズロの真っすぐな姿勢に好感触を得たのか、何度も小さく微笑みながら頷く。これは了承か、セドニーが何となく安堵の息を吐こうとした瞬間だった。

「断る!!」

今までに聞いたことのない、腹から押し出した低い声がアズロの願いを一刀両断する。いや、むしろ遠慮なしにぶった切ったという表現の方が似合っていた。気合の入った声とは裏腹にラリマの美しい笑顔はそのまま崩れることなく保たれている。

「し…師匠?」
「なあに、セドニー。」
「ラリマ殿…」
「断る!」

セドニーにはいつも通り優しく返し、しかしアズロには敵意丸出しで言葉を遮った。こんなラリマを見るのは初めてだったセドニーはアズロと共に呆然としてしまう。一体何が起こっているのだと現状を理解できずにいた。

「…ラリマ。」

何の為にいるのか分からなかった支配人のタイガがようやく口を開いた。普段から口数少なく、長い黒髪から見える強い力を宿した瞳で物を言う威圧感のある人物。声なくとも存在感を堂々たる姿でしらしめるこの魔法屋の主人だ。

同僚の誰かが、支配人は目で人が殺せると言っていたのを急に思い出してセドニーは自然とアズロの前に手を出して彼を庇うような素振りを見せた。思えば支配人の声を聴くのも久しぶりだと、余計に緊迫感が増して身体が震えてくる。そんなセドニーをアズロは不思議そうに眺めていた。

「…何?タイガ。」
「相手が挨拶に来ているんだ。拗ねてないでちゃんと応えろ。」
「…ちゃんと?」

最初は笑顔でかわそうとしていたようだが、タイガの諭す声にラリマの表情が曇っていく。視線は落とされ自身とセドニーとの中間程の床を眺めてラリマは黙ってしまった。

「…ちゃんとって何よ。」
「ラリマ。」
「こんなの耐えられると思う!?自分の娘の結婚の許しを請われている父親の気分よ!許す許さないじゃないの!とにかく気に入らないの!!」
「…落ち着け。」

意気消沈しているのかと思いきや、勢いよく顔を上げたかと思うとそのままタイガの胸倉を掴んで思い切り揺さぶり始めた。
襟が引きちぎられそうなくらい力づくてタイガを振り回しているが、意外とタイガは平気なようだ。

「ラリマ、服が破れる。」

唸りながら服を掴んで揺さぶり続けるラリマに冷静につっこむあたり、タイガはこの状態に慣れているという事なのだろうか。なんとなく二人の関係性が見えたようで圧倒されつつもセドニーは感動していた。

「あ、横の人は支配人のタイガさんです。」
「ああ…そうか。分かった。」

ふと我に返ったセドニーは支配人を紹介していなかった事に気が付いてアズロに小さな声で伝える。今この状況で伝えられたことにも驚くが、それ以上の事が目の前で起こっているのでアズロは素直に受け入れた。
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