魔女のはつこい
「な…っ!」
「だから安心してこれまで通りに修行に打ち込んでほしい。」
「さっきの一言は絶対に余計だったと思う!!」

予想外に怒られたことに驚いてアズロの目が丸くなった。宣言した方が安心するとタイガに助言されたからそうしたのにいったい何が良くなかったのだろう。言い方だろうかとアズロを不安が襲った。

「そういう事は言わない!分かった!?」
「…ああ、分かった。」

言い方よりも言葉そのものに対して反応しているようだと静かに理解する。よく分からないが、そこまで起こっている訳ではなさそうだという事だけは感じ取れた。

「思ってなくても言われた瞬間から意識しちゃうことだってあるんだからね!?」
「なる、ほど。」

恥ずかしがっているのだろうか、でも何に?アズロの中で止まらない疑問符は延々と続きそうだ。セドニーはぷりぷりと怒りながら扉の方に向かっていく。

「セドニー?」
「お腹空いたでしょ!?…ご飯作るから。」

段々と何故自分だけこんなに怒っているのか分からなくなり声が小さくなっていった。そして同時にこれだけ感情が忙しくなっているのは自分だけという事も悟って恥ずかしくもなる。もちろん申し訳なさもあった。

「…すごい…破壊力だ。」

恋愛小説の中で憧れた主人公の相手、それは皇子であったり騎士であったり様々な職業ではあるが、彼らの行動には共通点があった。彼らはいつも主人公に対して真っすぐな言葉をくれる。

言葉は違えどアズロは間違いなくいつもセドニーに真っすぐな向き合ってくれていた。

「どれだけ揺さぶられるの…しんどい。」

どれだけ物語の主人公に憧れただろう。
いつか自分にもそんな人が現れたらいいのにと、魔法屋の仲間内ではしゃいだことも何度だってある。互いに妄想しては取り乱して夢見たものだった。

でも実際に自分に真正面から向き合ってくれる男の人が現れたらどうしていいのかが分からない。ただ翻弄されて、自分の平常心を見失いっぱなしだ。

「手伝おう。少しくらいなら作れると思う。」
「あ、ありがとう。」

いつの間にか横に並んで歩いていたアズロに驚いた。セドニーより少し背の高い位置から金色の目が見つめてくる。
よくよく考えたらこんなに綺麗な顔をした男の人と一緒に過ごせるなんて贅沢ではないかと思い浮かんで、事の詳細を知った同僚が悶えて憤慨する姿を想像した。

楽しい生活になるといい、そう未来に思いを馳せてお腹の虫と相談を始めたのだ。
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