幸せなひとときをきみに〜隠れ御曹司の不器用な溺愛〜
<しみ抜きがデキる女>
周りから見ると男女の揉め事のようで、って実際そうなのだが近所迷惑になるといけないし、こんなところを見られるのも嫌なので渋々ながら部屋に入れた。

「とりあえず適当に座って。紅茶でいい?」

「何でもいいよ」

湯沸かしケトルをセットすると、ガラス製のティーポットに茶葉を入れていく。
清太郎のカップはゴミ袋に入れてそのままなので来客用のカップを用意する。
もう一つは清太郎と揃いで購入したカップだが自分の分だけはすっかり使い込んでいた。

ペアで買っても清太郎はほとんど使わなかったから。

一瞬、違うカップを出そうと思ったがどうせ覚えてないだろうからこのまま使うことにした。

清太郎は二つのゴミ袋を切なそうに見ていてなんとなく罪悪感を感じる。

「本気で別れる気なんだな。俺の部屋にもゴミ袋があって結構クルな」

「燃えないゴミ捨ててくれた?あの日は燃えるごみの日だったから出せなかった」

紅茶を手渡すと「はぁ」とため息をつく

「捨ててないよ、元の位置に戻しておいた」

まるで未練があるような言い方に心が少し揺れた。



ずるいなぁ




「本当の所はどうなんだ?誰か他に好きな奴が出来たのか?」

さっきまで一瞬ぐらついた心が真っ直ぐになる。

「だから、あなたと一緒にしないで!そんなのいるわけないでしょ!だから」

「だから?」

「婚活パーティに行って来たんだから」

清太郎は口元に持っていこうとしたティーカップをソーサーに戻した。
勢いよく戻した為、テーブルとスーツの背広に紅茶が飛んでしまった。

「何やってんの」

慌ててタオルを濡らして硬く絞る。
スーツにシミがついてはいけないと思い無我夢中で濡れタオルで紅茶がかかった所を叩いた。

「やりにくいから脱いで」

清太郎は呆気に取られながらも言う通りにスラックスを脱いで麻衣に渡すと、汚れの内側に乾いたタオルを置き、硬く絞った濡れタオルでトントンと叩き出す。


「とりあえず応急処置はしたから、後はクリーニングに出せばシミが残らないと思う」

そう言って顔を上げるとネクタイをキチンと締めた背広姿なのに下はボクサーパンツに靴下姿であぐらをかいている清太郎の姿が普段とのギャップで可愛く見えて思わず噴いてしまった。

「何だよ」

「だっていつもクールな清太郎が変態みたいだから」

顔が赤くなってデレている清太郎を見て時々、こんな表情をするところがたまらなく好きなんだよなぁ。


もう、私のものじゃない。

「変態って、追い剥ぎをしたのは麻衣だろ」

そう言って片方の眉だけ上がる所とか

「追い剥ぎって、失礼ね」

笑うと可愛いところとか
別れたこと、後悔しちゃうじゃない。

「で?婚活パーティでは誰かいい奴でもいた?」

「別に、今回は様子見というか準備だから」

明らかにホッとした表情に、心が揺れる。
何なのよ、自分にはあんな可愛い恋人がいるくせに。

「まさかあんな所で会うなんて思わなかった」


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