幸せなひとときをきみに〜隠れ御曹司の不器用な溺愛〜
「さぁ飲むぞ!」

荷物をだしたコンビニでお酒とおつまみをしこたま買って祥子の部屋はちょっとしたカオスになっている。

「遠距離って不安にならない?」
こんなに近くにいても不安になって信じることができなくなった。
台湾と日本、ものすごく遠い訳じゃ無いけどすぐに会える場所でも無い。

「う〜ん、全く不安にならないって事はないよ。でもそれってお互いが努力する事で不安に思う気持ちは少なくなるじゃないかな。どちらか一方だけの努力だとふと気が抜けた時に不安だけが増幅して抑えられなくなる気がする」

ああ、まさしく自分はそれだった。

「連絡はそれぞれの生活に負担が無いときに、でも間隔を開けすぎないとか』

「でも、なんだかんだ言っても長期の休みの時は行き来してるもんね、羨ましい」


缶チューハイや缶入りのカクテル、ビール、ワンカップがテーブルの上に並んでいる。

「アラサーの家飲みって、色気が無いわね。あっでもカクテルが何気に美味しいかも」
そう言って祥子が今飲んでいるカシスソーダのラベルを見る。


「私もカクテルにしよう」
祥子が飲んでいるカクテルシリーズのスクリュードライバーを手に取りプルトップをつまむ

「ねえ、ちゃんと話をしなくていいの?言いたいこと本当はあるんでしょ?我慢しないで今までの不満をきっちりアイツにぶつけてそれで終わらせてもいいんじゃない?」

プルトップに指をかけたまま固まってしまった。

言いたい事?

たくさんあるけど、今更言ってどうなるんだろう?

「スッキリさせて次に行きなよ、5年という長い時間をきちんと区切って新しい恋を始めてもいいんじゃない?」

「区切り・・・」

「浮気までしてたんだから尚更だよ!最後はクソ野郎って怒鳴ってやってもいいと思う」

そっか、私は怒っていいんだ。

最後はセフレ扱いだったとしても、始まりは彼が交際を申し込んできたんだから。

それで裏切ったんだから



「そうだよね、ガツンと言うよ」

「そうそう、その意気だよ!」

祥子はそう言うと私のスマホを私の掌にのせた。

アドレスにある彼の番号をタップしようとした時スマホが震えた。
とっさに指が動いた。

「麻衣?」

自分から連絡しようと腹を括ったのにいきなり彼からの電話なんて焦ってしまう。
というか、なんの用だろう?

「何」

「それはこっちが聞きたい」

言いたいことを言うって決めたんだ。
「今更聞いてどうするの?もう冷めてたんでしょ」

「何を言ってるんだ?」

「男の30歳と女の30歳は違う、クリスマスとか誕生日とか夢を見てた。あなたがプロジェクトリーダーとして頑張っているのも知ってる、だからあまり会えなくても仕方がないと思っていた」

「合鍵を渡しただろ、麻衣が使わなかったんだろ」

「使ったわよ、一度だけ」

「え?」

「渡されて浮かれて食事を作りに行った時、あなたが私をみるなり、構ってる暇はないって言ったの。確かに仕事を持ち帰っていたから忙しいのはわかっていたけどそんなことを言われたらもう使えなくなった。鍵を見るたびにあの日のことを思い出して怖くなった」

「ゴメン、そんなつもりはなかったんだ。麻衣は合鍵を使ってまで俺に会いたいと思ってないのかと思った」

「あなたに呼ばれれはすぐに行ったわ。それが、身体だけだとしても会えるならよかった。誕生日もクリスマスもあなたの部屋でデリバリーだったけど、それでも二人でいられるのが嬉しかった」

「麻衣からは連絡が無いから日曜日に誘っていいのかわからなかった。身体だけなんて思ってなかったが会えば欲しくなって、そう思われていても仕方がないが、それでいきなりさよならって納得できるわけないだろ」

「私ね、結婚したかったの。でも、あの日二人の関係について聞いた時に どうにもならないって言葉を聞いた時にちょっと絶望したの。あなたは私との未来を考えてないんだって、いつの間にかあなたにとって私はセフレだったんだって」

「せ・・・セフレってそんなわけ」

「この一年は夜に部屋に呼ばれてSEXするだけの関係をそう言うんじゃないの。誕生日も忘れられて」

「別に忘れていたわけじゃない。合鍵があるんだから部屋に来てくれればって」

「もういいよ、私の誕生日なんかより若くて可愛い恋人と高級ホテルで過ごす方が大切なんだもの。だから、ちゃんと理解したから。彼女と幸せになってなんて言わないわ。そんなこと思ってないから。でも、私はあなたたちより幸せになってやるから。だからもう二度と連絡してこないで」

「何・・・」

彼が何かを言いかけたけど電話を切った。
そして、ブロックをした。


「言いたかったこと言った」
涙が次から次に流れてきた。

何度も吹っ切れたつもりだったのに。
でも、これで最後

「よくがんばった。思いっきり泣いていいよ」
そう言って祥子が抱きしめてくれた途端声を出して泣いた。

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