俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「どういう意味だ?」

 カリッドは埋めていた顔をあげて、優秀な使用人を睨んだ。

「さっさとモニカ殿に気持ちを伝えればいいものの……」

「なっ、ちょっ、イアン。き、貴様、何を言っている」

 そこでイアンは深くため息をついた。恐らくモニカ本人は気付いていないだろう。この上官の思惑に。そして周囲も。そうやって気持ちを周到に隠してきたこの主には、イアンも敬意を払いたいとは思っているのだが。
「物で釣って好きな女性でかつ部下に恋人役を頼むとか、新手のパワハラですか」

「パワハラではない。断じて違う。任務だ。モニカにもそう言った」

「まあ。彼女が本物の恋人ではなく、恋人役であることがばれないように、しっかりなさった方がよろしいのではないでしょうかね。ああ見えても、あの方たちも鋭いですからね。カリッド様が結婚する気がないことを知っての今回の呼び出しでしょうね」
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