俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「お荷物、預かります」

「あ、いえ、大丈夫です」

「こういうときは、素直に預けてください」

「あ、はい。ありがとうございます。それよりも、イアンさんもご一緒なんですね」

「ええ、私はカリッド団長の事務官ですから」
 そこでイアンはくいっと眼鏡を右手の人差し指で押し上げる。

「大変なんですね、事務官というお仕事も。上官の休暇についていかなきゃならないなんて」
 どうやらモニカは何も知らないらしい。カリッドという男のことを。

 モニカはイアンに案内され、そのちょっと足を踏み入れにくいお高そうな宿へと入ることに成功した。
< 21 / 177 >

この作品をシェア

pagetop