俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
2.だんだんと罠にはまる

1.

 モニカは何事もなかったかのように。
「あ、ありがとうございます」

「いや、気をつけろ」
 平静を装ってカリッドは彼女に声をかけるが、平静を装うことができないのが彼の下半身である。
 とにかくカリッドは彼女と少し離れたかった。だけど、自分から「腕を組む」と言ってしまった以上、今更その腕を解けとも言えない。それに彼女が最後まで転ばなかったのも、この腕があったからだ。
 行きはそれほど距離があるとは思わなかった宿までの道のりだが、今はものすごくそこが遠いような感じがしていた。

 宿に着いたときには、なぜかカリッドはぐったりとしてしまった。モニカはきょとんとソファに座っている。
 さて、どうしよう。

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