狂った隣人たち
見える
くるみは何度も『自分の家に戻ってろ』と言われたけれど聞き入れなかった。


今度こそなにがおこるかわからない。


和室に閉じ込められたまま二度と出てくることはできないかもしれない。


そうわかっていたけれど、祐次ひとりでは行かせられなかった。


そんなことをすれば絶対に後悔することになる。


「大丈夫か?」


和室の前で立ち止まり、祐次がくるみへ振り向いた。


「うん」


すでに微かな吐き気を感じていたが、くるみはうなづいた。


ここまできたらもう引き返せない。


握り締めた拳は振るえ、じっとりと汗が滲んでいた。


前にいる祐次がゆっくりと時間をかけて襖を開く。


薄く開かれた向こうから冷気が廊下へと流れでてくる。


足元から冷えてくるのを感じながら2人は和室へと足を踏み入れた。


開けたふすまはそのままにしておく。


「このあたりから手が出てきたよな」


祐次が畳の一角で立ち止まった。


「うん」


「畳を上げてみよう」


そうなることはわかっていた。


くるみと祐次はその場にかがみこんで畳の縁に指をかけた。
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