ママの手料理 Ⅱ
第2章

失われた記憶

それからの事はよく覚えていない。


俺の目の前で愚痴を零す航海の言葉を借りると、どうやら俺は“死ぬ程爆睡していた”らしく、家に着いたから起こそうとしても“気味の悪い寝言を言い続けて”いて、車の中に置いていく決断までしかけたらしい。


しかしそこで“無駄に優しすぎる”湊が駄目だと言ったから、“仕方なく”航海と銀子ちゃんが俺を自室まで運んでくれたんだとか。


その時の俺の部屋は“ゴミ屋敷と同レベル”なくらい汚くて、そこで幸せそうな顔をしながら熟睡していた俺は“もはや人間の域を超えた生物”らしい。


しかも俺は翌日の昼過ぎまで“耳元で爆音で音楽をかけても尚爆睡”していたーこれらの事は全く記憶にないー。



「さっきから俺の事悪く言い過ぎじゃない?紫苑ちゃんを盗んだのは俺だよ!?」


「そうですけど、あの寝言気持ち悪すぎて…。『おかえり琥珀、夕飯にする?お風呂にする?それとも俺?』って言ってたんですよ、そこまで好きなら早く付き合えばいいじゃないですか」


「え!?俺そんなこと言った!?」


「言いましたよ、聞いてたのが僕だけで良かったです」


紫苑ちゃんを盗んだ翌日の昼過ぎ、起きたばかりの俺は航海の部屋でお菓子を食べながら俺に対する小言を聞いていた。


紫苑ちゃんは余程疲れていたのかまだ眠っていて、湊と銀子ちゃんが交代で部屋の様子を見に行っている。
< 165 / 273 >

この作品をシェア

pagetop