ママの手料理 Ⅱ
私達が、ゆっくりと廊下を歩いていると。


「…違う!私は0728番じゃない!私の名前はサキ!サキなの!思い出したんだから!」


突如、左の部屋から少女の大声が聞こえてきた。


「落ち着いて下さいませ、0728番様!貴方の名前はサキではありません!虚言を言うのはおやめになって下さい!」


「うるさい、0903番!私はサキなの!お兄ちゃんは何処?パパとママは?ここは何処なの!?」


部屋の中で他の下僕と思われる女性の大声と、サキという少女の金切り声が耳をつんざいた。


「…あの子の名前、サキっていうの?数字じゃなくて…?」


その場に立ち止まった私は、ぽつりと呟いた。


「…いえ、あの方は嘘をついているだけでしょう。あの方は確か、精神の病気にかかっているはずです」


隣から聞こえる0823番の声は、小さくて震えていた。


そう…、と言って歩みを再開しながら、私は別の事を考えていた。


(あの子、自分に父親と母親、それからお兄ちゃんが居るって…。皆大叔母さんの子供でなのに、どういう事なんだろう?)



私は、0823番から、今ここに居る下僕とほかの部屋にいる人達は皆大叔母さんの子供で家族だと教わっていた。


現実的に考えて、大叔母さんがこんなに大量の子供を産んだり育てる事は出来ないはずなのに、その頃の私は下僕の言葉を信じて疑わなかった。
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