裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「あ、申し訳ございません。気持ち悪いなんて思っていません。ただ、大変な思いをされたんだろうと……」

直哉は、寂し気な表情を浮かべた。

「5年前に事故に遭うまでは、自分の足で立って歩けるのが、幸運な出来事とは思わなかったよ」

「5年前……」

その符号に息を吞む。

「ん?」

「いえ、なんでもございません。お食事ご用意しておきますので、どうぞシャワーを浴びてください」

プールサイドから慌てて母屋のキッチンに向かう。
5年前の事故……。
直哉が事故に遭っていた。そう思うだけで胸の奥が締め付けられるように痛む。
私が東京に会いに行っても会えなかったのは、もしかして事故に遭っていたから?

でも、治ってからでもメールや電話も出来たはずだし、その後、なんの連絡もなかった。
今回だって、以前の事を何もなかったように過ごしている。
実際問題、自分が捨てられたという事実は動かないんだ……。

キッチンに入り、コーヒーメーカーをセットした。そして、食器の上に提携ホテルから運ばれた朝食をプレートの上に並べ始め、視線を上げればキラキラと輝くプールの水面が見える。
途端に思考が5年前の日に飛び、あのプールで直哉の熱を感じた事を思い出してしまう。
そういえば、初めて結ばれた次の日から二人分の朝食を並べていたっけ、甘い夢のような毎日だった。

昨日は、陽太に「私も大人になった」と言ったのに気が付けば、直哉の事で頭がいっぱいになっている。
目の前にいなければ、心の片隅に置いておけたのに……。
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