裸足のシンデレラは御曹司を待っている
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◇ ◇ ◇


5年前に直哉が城間別邸に訪れた時も今日と同じように、抜けるような青い空と照りつく日差し、そして海からの風が木々を揺らしていた。

まだ別荘の管理人に成りたての当時24歳の私は、敷地に車が入って来た音を聞きつけると玄関から慌てて飛び出し、花ブロックの先にある駐車場へと向かう。

スポーツタイプの高級車から降り立った彼を一目見た時、風の音も木々のざわめきも遠くに聞こえ、日差しの熱さだけを感じていた。

180センチはあろうかという高身長。真っ白なTシャツにデニムのパンツ、シンプルなスタイルなのに均整の取れた体躯がそれを引き立てている。
そして、彫りの深い顔だち、長いまつ毛に縁どられた切れ長の二重の瞳がとても綺麗だと思った。

彼に目を奪われたまま「城間別邸にようこそお越しくださいました」とお決まりの挨拶をして、施設の説明を始めた。

500坪の敷地に建てられた外壁部分が全面ガラス張りの木造平屋建て住宅。70平米の母屋とプライベートプールに離れの茶室まで備わっていて、1棟貸し1泊20万もする高級別荘。
それを1週間も借り切ったお金持ち。

てっきり会社を引退されるような年齢の人が来るものと思っていたのに20代後半の俳優のような青年が訪れるとは思ってもみなかった。
驚きを隠しつつ一通りの建物の説明を無事終えたところでホッと息を吐く。

誰もが振り返るほどの整った顔立ちに高身長。そして、高級別荘を借りるほどの経済力。小説やドラマに出てくるの王子様のような柏木直哉。

彼とのシンデレラストーリーを夢見たところで、私には手助けをしてくれる魔法使いがいないことを知っている。
けれど理性を裏切るようにトクトクと心臓が早く動き出す。自分の心なのに制御できない。

ひとめぼれ。

そんな言葉を思い出した。
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