裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「いいな、そんな中学時代。俺は、全寮制の中高一貫校に入っていたし、夏休みも実家には帰らなかったから家族旅行にも参加した事が無くて、素敵な思い出があるのが羨ましいよ」

「私も家族旅行はしたことありませんよ。幼い頃に母が亡くなって、父も仕事で忙しくて、祖母と二人暮らしみたいなもので、近所に住む、幼馴染と男の子のように走りまわっていました。それでも、まだ、母がいた頃は親子3人にで買い物をすることがあって、いい子にしていると最後に父がブルーシールのアイスを買ってくれるので、それが楽しみでいい子にしていました」

「いい家族だな。俺も子供が出来たら家族で出かけてアイスを買って、自分がしてもらいたかった事を子供にしてやりたいと思っているんだ」

あ、前にレストランでアイスの話をした時に私が言った言葉を覚えていてくれている。
もしかしたら、直哉の記憶の深いところに、まだ私がいるのかもしれない。
そんな希望を胸の奥に抱く。

「少し歩こうか」

直哉に手を差し出され、その手を重ねた。
節のある大きな手から伝わる熱感じ、直哉から香るオリエンタルノートが鼻をくすぐる。
ふたりの並んだ足跡を寄せては返す波が攫い、あの時ように青い空と海が広がっている。

直哉の記憶が戻ったら、私たち二人の関係はどうなるんだろう。


< 52 / 179 >

この作品をシェア

pagetop