裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「ようちゃんも せんせいと かえっちゃったんだよ」

「陽太は先生を連れて来てくれただけだからね」

遥香の口から男性の名前が語られたことに胸を焼かれながらも、帰ったという言葉に疑問を残した。

腰を低くして子供の目線で語りかける。

「おじゃまして、悪かったね。名前教えてくれる?」

「ボク、シンちゃん。4さい」

と、親指をたたんだ小さな手を俺に見せる。
その符号に心臓の音が大きくなり、心の奥であきらめかけていた光が仄かに瞬きだす。

もしも、この子があの時に出来た子供だったなら、どんなに嬉しいことだろう。

遥香の暮らしを壊してはいけないと思いつつも記憶が戻った事を告げたくなる。
でも、もし違っていたら……。
そんなことを思うと子供のいる前でしてはいけない話だ。
グッとこらえて笑顔を向けた。

「いろいろ迷惑をかけてしまった。ありがとう」

俺の言葉に彼女は表情を硬くして「はい」とだけ言った。
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