裸足のシンデレラは御曹司を待っている
15
side 柏木直哉

記憶が戻った事を話そうとしていた矢先に、遥香の携帯電話が鳴りだした。
あまりのタイミング。
まるで、神に悪戯されているようにも思えてくる。

通話の内容が漏れ聞こえてくる。その内容は遥香の息子が怪我をした様子が伝わってきた。もしかしたら、その子は自分の息子かもしれないと思うと怪我の具合やその様子が知りたくなって、居ても立っても居られない気持ちで焦りが募る。
大きな怪我でなければいいのだが……。

玄関の扉の前で通話を終えた遥香が俺の方に振り返る。その瞳は不安で揺れていた。

「あの、すみません。息子が保育所で怪我したみたいなので、直ぐに行かなくてはいけないんです。申し訳ございませんが、今日のご案内キャンセルさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「怪我をしたなんて、それは大変だ。急いで行ってあげないと」

「はい、すみません。ありがとうございます」

「……大丈夫? 俺でよければ一緒に行こうか?」

不安そうな遥香についていてあげたい。それに子供の様子も気になる。咄嗟に出た一言だった。

「いえ、一人で大丈夫です。お気遣いありがとうございます。ご案内できず申し訳ございません。それでは、柏木様。良い一日をお過ごしください」

別荘管理人とお客としての距離感。
きっぱりと言い切られて、自分の無力さを知る。
気持ちで思っていても、何も出来ないんだ。

「俺の事は、気にしなくていいから、早く行ってあげて」

こんな事しか、口に出来ない自分に歯がゆくなった。
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