仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「なんで同じもの頼んでいるんですか……」
「僕もオムライスの気分だったんだよ」
「そうですか」


 会話を広げることもなく穂乃果はオムライスを食べ始めた。


「どう? 出社初日、疲れたかな?」
「まぁ程々には。でも原口さんが丁寧に教えてくれるのでわかりやすいです」
「そうか、ならよかったよ。穂乃果はお菓子は好き?」
「まぁ、好きですけど」


 そういえば桐ケ谷製菓で作っているビスケットやグミをよく子供の頃食べていたのをふと思い出した。母がまだ生きていた頃、一緒にスーパーに行くと一つだけという約束でいつもお菓子を買ってもらって、その帰り道に一緒に食べながら歩いて家に帰った。もう二十年も前の話だが今も鮮明に覚えている。そんな母との思い出が桃果には一つもない。スーパーに行ったことも殆ど無いし、お菓子なんてもってのほか。病院で出るデザートくらいしか甘いものを食べたことがない。それを考えただけで胸がギュッと締め付けられ絶対に桃果を幸せにしたいと強く思い直すのだ。


「僕も大好きなんだ。だから僕を育ててくれた両親が大切にしてきたこの会社を継げて僕は幸せでした」
「はぁ、そうなんですか」


 穂乃果は膝の上に乗せていた手をぎゅうっと握りしめた。会社を大切にしていたのは穂乃果も同じだ。父が大切にしていた工場を継ぎたかったのに。悔しくて奥歯を噛み締めながら玲司を睨みつけた。


「君と僕は似ている」
「……はい?」


 玲司はテーブルに両肘を付き手を組んだ。睨みつけている穂乃果の視線にびくともせずおおらかな優しい顔で穂乃果をじぃっと見つめ続ける。

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