仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。

12

 
 午後の業務はひたすら社長の玲司に着いて仕事内容を見て覚える事になった。社長として働く玲司は常に動き何かを考えている為、ホッと息をつく暇も無さそうなほど、次から次へと色々な案件を片している。まだ何も手伝うことの出来ない穂乃果はただひたすら見ていることしか出来ずに、いくら初日とはいえ自分の無力さに申し訳なくなった。


「奥様、さきほどから奥様のカバンから多分電話でしょうか、何度も鳴っているので確認していただいたほうがいいかと思いますが」


 社長室と繋がるドアから原口が顔を出してきた。電話、なんて穂乃果のスマホに滅多にかかってくることはない。まさか――


「あの、確認してきてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだよ。見ておいで」


 急いでカバンの中からスマホを取り出し確認すると悪い予感は的中していた。何度も桃果入院している病院から着信が入っている。急いで掛け直すとクラリと倒れそうになる言葉を看護師から告げられた。全身が震えだす。


「お、奥様。大丈夫ですか?」
「ど、どうしよう。桃果が、桃果が……」


 呼吸が乱れる。息がうまく吸えない。


「あ、あ、今日は早退させて、く、ださい」


 震えて上手く話せない。人を失う怖さを知っている穂乃果だからこそ最悪の事態が思い浮かんでしまい足がすくんで動けなかった。


「穂乃果、大丈夫だ。僕がいるよ。原口、僕は今から穂乃果と病院に行くからこの後のことは任せるよ」
「かしこまりました」


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