仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。

2


 初めて買った喪服がまさか自分の父の葬儀だなんて思いもしていなかった。母の葬儀の時はまだ高校の制服だったから。悲しみで歪みそうになる顔を必死で繕い父のために訪れてくれる人にたくさん頭を下げ、お悔やみの言葉に定型文で「恐れ入ります」と何度もくり返したのだ。


「はぁ……」


 疲れた。たくさんの人に話し掛かられなんて答えたのかもままならない。やることが多すぎて、考えることが多すぎて、悲しみに浸る時間も無いほどだ。
 結果事故か自殺か調べるために父は解剖され、結果特に何も見つからず、多分過労で居眠りかなにかだろうと解剖医の人に言われたが、ならわざわざ亡くなった父の身体を切らなくても良かったんじゃないか? と怒りたくなる衝動を我慢した。やっぱり無理にでも休ませて、桐ケ谷製菓にも自分が行けばよかったと凄く後悔している。しても、しても、後悔しきれないくらい、後悔している。
 妹の桃果にも父が亡くなったことを伝えた。それはもう泣いて取り乱して呼吸を乱したがすぐに病院の主治医の先生が薬で落ち着かせてくれなんとか大丈夫だったものの、桃果はしばらくショックで口を開かなかった。今日のお葬式にも桃果の体調面を考慮して参列はしていない。


「はぁ……」


 ため息が止まること無く次々と溢れ出す。お葬式の準備、まさか二十六にして喪主をつとめるなんて思ってもいなかった。会社の倒産手続きだってそう、父がいなくなってしまった今、やはり経営難で工場を続けることは難しいと言われてしまい葬儀が終わったら色々な手続きに追われる日々だろう。
 これからの事を考えたらクラリと目眩がしそうになる。憎たらしいほどに雲ひとつ無い晴天。綺麗な青空は今、穂乃果にはとてもじゃないけれど眩しすぎて見上げられない。


「まぶしいな……」

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