仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


 びゅうっと冷たい風が身体をすり抜けていった。フレアスカートが風で揺れる。あまりの寒さに着ていたコートの前をぎゅっと閉め、自分の身体を抱き締めた。枯れ葉が足元をするすると風で流されていき、その流れとともに一緒に歩き進めると高梨家と書いてある墓が見えた。


「花……?」


 時刻はまだ午前十時。それなのに綺麗な花がいけられていた。見覚えのある花、ラナンキュラスの花だ。そんなはずがあるわけないと思いながらも頭の中にはたった一人の人物しか思い浮かばない。


「玲司さん……」


 今日は朝早く仕事に行ったはず。昨日? それとも今朝? 分からない。分からないけれどこの花はきっと玲司だ。 
 ジワリと目の奥が熱くなる。父と母が眠る墓の前に顔を隠してしゃがみこんだ。こんなの反則だ。


「お父さん、お母さん、キレイな花でしょう。桃果もこの花が大好きなんだって。この花を飾ってくれたのはきっとあの人だよね。なんでだろう、嫌いだったはずなのになぁ……」


 瞳に溜まった涙が流れないように上を向く。見上げた空は雲ひとつ無い晴天で、それでも肌に当たる空気は冷たかった。


「よっし、きれいにしよう」


 バケツにたくさん水を汲み石墓を綺麗に拭き上げる。チャッカマンに火をつけてお線香に火をつけると、ふわりとお線香の独特の匂いが漂った。水が冷たくて真っ赤になった手を合わせ、瞼を閉じる。


(お父さん、お母さん、桃果は病気に負けないように頑張ってるよ。このまえは大変だったけど、いつも頑張ってる桃果の弱音が聞けてよかった。早く学校に通えるように二人も空から見守っててあげてね。私は……最近新しい仕事を始めたよ。すごくやりがいもあって楽しいし、会社の人たちも凄く優しい。優しいんだ……)


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