仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「な、なんなんだな! お前、穂乃果さんの近くをうろうろしてた男だな! 穂乃果さんを返すんだな!」


 林田は頬を抑えながら玲司に向かって大声を出した。


「お前、何いってんだ? 穂乃果は僕の大切な妻だよ。穂乃果を傷つけた代償はでかいからな。覚悟しておけよ」


 鋭い眼光で林田を睨みつける玲司。ここまで怖い表情の玲司は見たことが無かった。


「ななななな、妻って……穂乃果さんがそんなはずはないんだな! ずっと僕は貴女を見てきたんだから、そんな、そんな」
「お前、やっぱり穂乃果のストーカーだろ?」


 ストーカー? その言葉を聞いてゾッとした。鳥肌が一気にあらわれ、自分は知らない間にこの男に見られていたのかと思うと恐怖でやっと玲司の抱き締められて落ち着いてきた身体がまた震えだす。その震えに気づいた玲司はまたぎゅっと穂乃果を強く抱き寄せた。


「すすすす、ストーカーだなんて失礼な男なんだな! 僕は愛している穂乃果さんの事を見守っていただけなんだな!」


 玲司は大きくため息をついて、林田に冷たく言い放った。


「お前のことはずっと探偵が調査していた。でもこれといった犯行がないと対処出来ないのがやっかいなストーカーなんだ。いいか、お前はそのやっかいなストーカーなんだよ。でもな、今日の穂乃果に対しての行動を警察に報告させてもらう。二度と穂乃果に近寄るなよ」


 玲司は穂乃果を林田から守るように肩を抱いて「穂乃果、行くよ」と歩き出した。林田は返す言葉っも失っているのかただただ頬を抑えて道路に座り込んでいる。怖かった。自分がまさかこんな目にあうなんて思ってもいなかった。玲司が助けてくれなかったらどうなっていいたんだろう。考えるだけでゾッと背筋が氷る。
 玲司の車に乗り込みサイドミラーに小さく映る林田を見たくなくてぎゅっと目を閉じた。ゆっくりと動きだす車の振動を身体で感じながら。


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