冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる
満月は、吉兆か凶兆か
深夜のさわやま病院は静まり返っている。
満月の光に照らされた、ひと気のない一筋の廊下に足を踏み込むと、言い知れない不安にかられた。
満月の夜は苦手だ。吉兆を示す光さえ、私にとっては重苦しい。
婚約者である惣一郎さんの母親が亡くなった日は、失意の人々を無神経に煌々と照らす満月の夜だった、そう彼は話してくれた。
彼と私が初めて相まみえた日も、澄み切った夜空にひときわ大きく照る満月が印象的な夜だった。彼は初対面の私に向かって、満月は嫌いだと言ったんだった。
「俺にとっての満月は、凶兆なのですよ。この婚約がそうならないことを祈るばかりです」
当時、二十歳になったばかりだった私には、とても怖い言葉として心に響いた。結婚はもっと、色鮮やかに華やかで、幸福に満たされているものだと思っていた。
いま思い返すと、満月のあの日は、私と惣一郎さんの凶兆の始まりだったのかもしれない。
それでも、二年の月日をかけて、私たちは幸せになれると信じ、お互いの心を寄り添わせてきた。
今夜も満月は淡々と美しく輝き、私たちを見下ろしている。
何か、悪いことが起きたのだ。
深夜に病院へ、それも、惣一郎さんに会いに来てほしいなどと連絡を受けたら、不安は確信でしかなかった。
満月の光に照らされた、ひと気のない一筋の廊下に足を踏み込むと、言い知れない不安にかられた。
満月の夜は苦手だ。吉兆を示す光さえ、私にとっては重苦しい。
婚約者である惣一郎さんの母親が亡くなった日は、失意の人々を無神経に煌々と照らす満月の夜だった、そう彼は話してくれた。
彼と私が初めて相まみえた日も、澄み切った夜空にひときわ大きく照る満月が印象的な夜だった。彼は初対面の私に向かって、満月は嫌いだと言ったんだった。
「俺にとっての満月は、凶兆なのですよ。この婚約がそうならないことを祈るばかりです」
当時、二十歳になったばかりだった私には、とても怖い言葉として心に響いた。結婚はもっと、色鮮やかに華やかで、幸福に満たされているものだと思っていた。
いま思い返すと、満月のあの日は、私と惣一郎さんの凶兆の始まりだったのかもしれない。
それでも、二年の月日をかけて、私たちは幸せになれると信じ、お互いの心を寄り添わせてきた。
今夜も満月は淡々と美しく輝き、私たちを見下ろしている。
何か、悪いことが起きたのだ。
深夜に病院へ、それも、惣一郎さんに会いに来てほしいなどと連絡を受けたら、不安は確信でしかなかった。
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