冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる
ねじれた愛をあばく時
***


 大野寺駅を訪れるのは、半年ぶりのことだった。

 綾城邸の最寄駅から二駅先にある大野寺駅は、地元の人が利用する生活感の漂う駅だ。さほど大きな駅ではなく、駅前には、こじんまりとした商店街があるだけ。

 大野寺駅前商店街には、懇意にしている呉服屋がある。結婚をひかえ、惣一郎さんと一緒に着物の仕立てに訪れたのが、半年前のことだ。その頃と、変わった様子は何もない。

 駅前のカフェといったら、一つしかなく、迷うことなく向かった。

 古い喫茶店を取り壊し、オーナーの娘夫婦が新しくオープンさせたレトロなカフェが、商店街の北にある。

 カフェ・オルトーがオープンしたのは、一年ほど前だったか。まだ新しい店内で、惣一郎さんと一緒にコーヒーを飲んだ。

 あまり、デートらしいデートをしたことがなく、何を話したらいいのかわからなくて、なんとなく窓から見える景色を眺めていたのを覚えている。

 私たちは結婚についてや、結婚後の生活についてたくさん話し合ってきたが、恋人とじゃれ合うような、たわいのない会話を楽しんだりはしてこなかったように思う。

 惣一郎さんと会えなくなって、そろそろ、ふた月になるのだろうか。

 月日が過ぎるのは、早い。だんだんと、優しかった彼の記憶が薄れ、罪悪感と寂寥(せきりょう)感だけが、心の隅に張り付いて残るのだろうと思った。
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