復讐の果て ~エリート外科医は最愛の元妻と娘をあきらめない~
 彼の荷物はほとんどが私たちの暮らしたマンションにあり、邸にはスーツケースひとつ分の荷物しかなかった。

 あっけない引越しの荷物を持って邸を出て行く彼を、乃愛と見送る。

 啓介さんはマンションを処分し、実家には帰らずアメリカに発つそうだ。

 会いたくても会えない遠い海の向こう側へ行く。

 乃愛の手を振りながら私は精一杯の笑顔を向けたけれど、彼がどんな表情で手を振り返してくれたかはわからない。

 彼のことだからきっと、優しく微笑んでいたと思う。

 乃愛を抱いたまま、涙で滲んだ啓介さんの車が見えなくなるまで、玄関に立ち尽くした。


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