妖の街で出会ったのは狐の少年でした

41話 忠実

「何をしているの?」
聞き覚えのある声に私の心臓は跳ね上がる
「ナグモ、さん」
ナグモさんは私の持っている書物に
一瞬狼狽えたように見えた。
「ご、ごめんなさい。忘れ物を届けに来たら倒してしまって。それで・・・」
駄目だ、全部言い訳にしか過ぎない。
「いや、床に積んでおいた私の落ち度だ。
それにいつかは話さないといけない事。
それが少し早くなっただけだよ。」
ナグモさんは伏目がちに答えた。
「カズハ、仕事が終わったらロクとまたここに来てくれる?2人一緒に話がしたいんだ」
「わかりました」
私は部屋を出ると床にへたり込む
「緊張した~。すっごい怒られるかと思っ た」
仕事に戻ったが集中できなかった。

「ただいま、ロク」
「おかえりなさい、カズハ様」
私は急いで着物を脱ぎ制服に着替える。
後ろを向いているロクに
「ねぇ、これから私と来てくれる?」
「どこにですか?」
「ナグモさんの部屋」
「そう、ですか」
ロクはこちらを向き
着物を簡単にたたみながら言った。
ナグモさんの部屋に行く間、ロクはなにも
言及してこなかった。
ノックすると返事が帰ってきた
「失礼します。ナグモさん」
「失礼します」
「仕事終わりにごめんなさい。」
ナグモさんは少し悲しそうな表情をして
私の後ろに目をやると
「久しぶりね、ロク。」
軽く微笑みを浮かべた。
私は邪魔にならないよう離れて正座する
ロクは片膝をつき、頭を垂れ
「お久しぶりです。ナグモ様
身寄りのない私を引き取り、仕事を、
住む場所を与えてくださったにも関わらず
恩を仇で返す形になってしまい申し訳 
ありませんでした。これからは誠心誠意
あなた様に忠実を誓います。」
凛とした声で発した
「頭をあげなさい、ロク。」
とても冷たい声でナグモさんは言った。
ロクの体が少し震えた。
「そんな堅苦しいのはすきじゃない。恩を仇でなんて考えてないわ。ひとりひとり考えは違う。ロクは自分と向き合い答えを出し、立ってくれた。それだけでもう、十分。
そのことがもう私に対して忠実を誓ってくれているんだよ」
だんだんナグモさんの声は
やさしくなっていった
「ナグモ様」
「これからはその忠実をカズハに向けてほしいな。」
「え、私ですか?あ、ごめんなさい」
いきなりのことで話を遮ってしまった
「私はあなたにとって恩人かもしれない。
でも、主はカズハだ。従者は主人に使えるものでしょう。」
ナグモさんは片目を瞑る。
「ナグモ様・・」

「さて、話が逸れたね。
そろそろ本題に入ろうか」
ナグモさんは真剣な表情に変わった。
「私は・・・」
コンコン、不意に扉がノックされた。
「失礼します。ナグモ様、
少々よろしいでしょうか?」
「ごめんなさい」
ナグモさんは立ち上がり、扉で誰かと二言
ぐらい交わして私たちに
「ごめんなさい、急用が入ってしまって。
少し出てくるね」
「あ、はい」
扉が閉まり辺りが静かになる。

「カズハ様」
「ん、なに?」
カズハ様の澄んだ瞳がこちらに向く
「俺たち妖にとって人間の生きる時間はあっという間です。あなたにもいつか一緒に添い遂げたいと思う相手が現れるでしょう。
ですからどうかその時まで、
守らせてください。
あなたのそばに居させてください。」
俺は忠誠と尊敬の意を込めカズハ様の手の甲にキスをする。
「ありがとう、ロク。でも私は添い遂げたいとかはわからないから・・えっと、」
そう言うカズハ様の顔は真っ赤になっていた
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