あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
神宮寺は父に向かって涙を浮かべた。
私は神宮寺のことを、全く分かっていなかったようだ。
恨むどころか、感謝しなくてはならない。
知らなかったとはいえ、自分が悔しくもなって来る。
心から謝りたい。
「神宮寺社長、今まで…本当に申し訳ございませんでした。このご恩は何かで…いいや、仕事でお返し致します。」
何も言わず、頷く神宮寺だったが、つぎの瞬間、何か思いついたように、私の方へと振り返った。
そして、なぜか神宮寺は私の頬に急に手を添えた。
「桜、もし、俺に謝りたいというなら、頼みたいことがひとつある。仕事として受けてくれるか?」
「…はい。私にできることでしたら…。」
「俺の恋人になってくれ、もちろん期間限定で構わない。」
突然、神宮寺は自分の恋人になれと言っている。しかも、期間限定とは、どういう事だろう。
何を言っているのか、まったく意味が分からない。
「…あ…あの…意味が分からないのですが…」
突然の事に、頬に手を添えられて、顔は爆発するほど熱くなる。
すると、神宮寺はクスクスと笑い始めた。
「驚かせて悪いな…実は…俺の両親が最近うるさくてな…いろいろあって、早く結婚相手を見つけろって…だから、恋人の振りで構わないから、協力してくれないか。」
神宮寺の申し出に驚いたが、考えてみれば私の母も同じようなものだ。
母親が会うたびに、結婚のことばかり話してくる。
もしかしたら、これは私にとっても、好都合なのかもしれない。